新制作展に行ってきた
美大時代の友人だったW氏(彫刻家)が新制作展の会員であることから、毎年招待券を送ってくれている。
ここ何年かは忙しくて行けなかったが、先週の休みに時間が取れたのでやっとのこと作品を見に行くことができた。
その前に公募展ってなに?
主催者が作品を公募し、関係者や審査員による審査を経て、入選作品を展示する展覧会の総称。大半の場合、主催者は特定の美術団体であり、団体所属の役員や美術家がその団体の基準に即して審査を行い、入選作品は団体会員の作品と一緒に展示される。
日展って言えばかなり有名なので分かるのではないでしょうか?
日展は日本美術展という美術団体です。日本を代表する芸術家が運営し毎年美術館で発表の場を設けている。その際一般にも公募して、団体の会員が審査基準をもうけ入選作品を選び、同会場で展示されます。
少し前に芸能人がこれら公募展に入選して、ニュースになったことがあると思いますが、ある意味芸術家にとっては権威ある展覧会で、それぞれの会の役員になるのがステータスにもなるわけです。
日展、二科展、独立美術協会、一水会、行動美術協会などがあります。海外だと、ビエンナーレ(二年おき)、トリエンナーレ(3年おき)などがありますが、こちらはよく聞きますよね?
で、この新制作展というのは、私が学生時代、美術界の一線で活躍していた芸術家が所属していた有名な公募展なのです。画家では、猪熊弦一郎、小磯良平、彫刻家は佐藤忠良、船越保武、柳原義達、本郷新など錚々たる芸術家が集まっていました。
かれらは一般的に、そんなに名前が有名ではないかもしれませんが、美術を勉強している人たちには超有名人なのです。
会場は国立新美術館です。他にも公募展がたくさん開催されていましたが、私は時間がなく、新制作展の彫刻の展示だけを見てきました。
彫刻作品は、彫塑(粘土で形をつくり、その後石膏やブロンズにする)、木彫、石彫、金属など最低でも4種類の素材を使って表現しています。ここでは現代美術は発表できません。あくまでもいわゆるアカデミックな表現のみになっています。
気になった作品の写真を撮ってきました。一応、撮影可でしたので。しかしながら作者紹介はなしで、
勝手にブログでアップしちゃいます。ごめんなさい。
簡単に感想を書きます。この彫刻はよくある形をしていますね。北欧のインテリアなどにある模様というか、フォルムというか。ちょっと見ただけでは、これって一体なんなの? て思うかもしれません。
でもよく見てください。丸太をくり抜いています。そしてなかに見えている芯のその中もくり抜いて作っています。
で、複雑にいり組む木の表面を磨いているのです。考えてみるとこれだけの作業をするのにすごく時間がかかるっていうか、どうやって中の芯をくり抜き、そして磨くんだろう? その辺すごく考え抜いている作品です。タイトルは「虫の家」なるほど昆虫が好きそうな空間ですね。
なんとなくの「形」だけど、実は見かけよりも何十倍も手がかかる作品なんですね。そこに技術この作家の技術と執念があるんだと私は思いました。
これ好きだわ〜 好みの問題です。それでもいいのです。
この作品も木彫です。手法は昔ながらのものですが、掘り出された人物が、ストリート系の格好をしたちょっとヤバイオネーサン?
よく見るとおっぱいがあるので女性かな、見た目は渋谷によくたむろってる若者のようです。ポーズも威嚇するような感じで、表情もそれ風です。よたってますね〜
美術学校で人体デッサンを学ぶと、人間は立った時に軸足が体の芯の下にきて、腰と胸とがバランス取ってウンヌンってのを勉強しますが、そんなのを意識するとまったく面白くなくなるのでやめときます。
ところで、ある不安がよぎります。
作品の前に立てかけてあるネームプレートを見ると知った名前があり、大学の教授だったり、売れっ子の芸術家が散見できますが、他の芸術家はどうやって生活しているのでしょうか?
ついつい余分なことを考えてしまいます。
昔から芸術家を目指す奴は親不孝と呼ばれていますが、なにかモヤっとしたものを会場で感じるのは私だけだろうか?
ウサギの彫刻が100億円? クローズアップ現代
ところで、たまたま昨日のNHKの番組クローズアップ現代で、アーティストの作品が日本円で100億もの金額で落札されたという話が紹介されました。
今ニューヨークのアートシーンでは現代美術の作品が高騰しているといいます。
その中には、草間弥生、村上隆、奈良美智など国際的に活躍しているアーティストの名前もあったのですが、とにかくとんでもない額が美術作品に注ぎ込まれるいるのです。
美術品市場の世界トップはアメリカが全体の44%を締めています。次がイギリスで21%。3位が中国で19%と追い上げています。中国は経済と共に文化としてもアメリカを追い上げているそうです。
中国は国威浮揚のために芸術作品を利用して、世界制覇を狙っていると紹介していました。
アーティストを作り上げるシステム
ニューヨークでは、才能のあるアーティストを画廊が発見すると、その画廊の背後にいる美術批評家がアーティストの作品を評論という言葉でメディアに発信します。そして次にコレクターが膨大な額で作品を買うのです。すると無名のアーティストは徐々に名前が売れ、作品の値段が釣り上がりお金が動き始めるという仕組みができているのです。
まあ昔からアンディ・ウォーホールなんかの話を聞けばアメリカ資本主義のすごさに驚かされるのですが、昨日見たクローズアップ現代の番組には目が点になるほど、そのシステムに納得しました。
日本の現状 このままでは芸術が衰退
世界の美術市場で日本の締める割合は1%に満たないといいます。
日本では芸術作品にお金が動いていません。クローズアップ現代でも紹介されていましたが、あのZOZOの創業社長相沢氏が購入した123億円のバスキアの絵画も日本を通り越して、すべてはアメリカでことが動いているのです。
※バスキア展始まりましたね!森アーツセンター ギャラリー
日本の芸術家は才能がないわけではなし、怠けているわけでもない。
ところがあまりに勤勉で、素直で、地味に芸術活動を行っているのではないかと、何気に思ってしまいます。
番組ではこの状況を憂い、文化庁が動き初めましたが、中国が国をあげて自国のアート作品の価値を目指す姿勢には到底及ばないのが現実!
今の日本はどうしたらよいのだろう! どこから手をつけてよいのやら。
国策のなかで、芸術をどの位置にとらえたらよいのか、その意識がまったく足りていないのが、日本ではないだろうか!
かつては「ジャポニズム」としてヨーロッパに多大な影響を与えた私たちの祖先の偉業を忘れてはならない!
今週、公募展に行って刺激にはなったけれど、どこかに重く垂れ込む気持ちがただ漂っている。