よくデザインとアートをごっちゃにしている人がいます。
これってアートじゃん! それデザインだね?
普段の会話でなんとなく良く聞きます。
「人生をデザインする」なんてコピーライターが目いっぱいかっこいい表現をして流れているテレビコマシャールのフレーズを聞くとやはり違和感を感じます。
ここではデザイナーの視点からデザインとアートはこんなに違うということをお話します。ちなみに私は美術大学で彫刻を勉強していました。したがってアーティスト側の視点も持ち合わせています。そのあたりからこの違いを述べていきたいと思います。
デザインとアートはなぜ一緒にされる
デザインとアートは私たちの生活の中で、ある使命を帯びています。それは新しい価値を切り開いていくことです。
その意味を説明いたします。
私たちの仕事の種類には体制を維持する仕事とそうでない仕事があります。
一般の会社の業務がそうです。たいていの仕事は「既存」の価値を守っていくものです。公務員などもこの類ですね。よく前例がありませんなどという言葉を彼らから聞きます。この保守的な、体制を守るということがあればこそ、私たちの生活は守られています。
というのも日々の生活が安定しなければ、私たちは快適な生活を維持できないのです。
約束 規律 法律などなど これらはすべて社会生活の安定のために定められた制度です。
それと対照的にデザインとアートは、従来の価値を壊し、新たなものを生み出して行こうとします。
かつてコマーシャルにもなった、岡本太郎の有名なフレーズです。
この言葉の意味することは、芸術の使命なのです。
爆発! 芸術というものは常に既存の価値を壊し、新しいモノを作り出し、時代を切り開いていきます。そのメタファーとして岡本太郎は爆発というワードを使ったのです。
デザインもこのような使命を受けています。例えば自動車のデザインは数年ごとに、モデルチェンジをしてイメージがどんどん変わっていきます。アップルのコンピュータもそうですね。アップルという会社、スティーブ・ジョブズの存在自体が既存の価値を壊して新しいモノを生み出す神のような存在です。
あまりにも有名なジョブスの名言です。安定や生真面目さからは、何も生まれないという意味です。
既存の価値を壊すという意味でデザインとアートは無意識に同列として存在していますね。
ではデザインとアートの違いを比べてみる
具体的にデザインとアートはどこが違うのでしょう?
表現の違い
何度も言いますが既存の価値を壊すということでは同じです。
ところがデザインは表現に制限があります。特に現代のデザインは商業化の範囲内で行われるために。クライアントとユーザーに挟まれ、勝手な表現はできません。また常に結果(売上)を意識しなければなりません。
アートの表現は基本自由です。絵画と彫刻、具象と抽象、など表現カテゴリーはあるのですが、画家が立体作品を制作を作ってもかまいません。またクライアントやユーザーもいません。感情のままに自己表現をしても誰からもクレームがきません。
問題解決の違い
デザインの問題解決は、ユーザーに対して「愛」を届けられるか! ということです。愛というのは情緒的な表現ですが、デザインされたものに、使い勝手の良さを感じさせたり、商品を持つことでユーザーに満足させるのを目指しているのです。その良さや満足といった感覚は、時代によっても違います。したがってデザイナーは常にアンテナを立てて流行に対して敏感に振舞っています。
アートの問題解決は自己の中にあります。極論をいえば自分勝手な自己満足でかまいません。どう考えても、岡本太郎は自分の感情を周囲のことなど関係なしに爆発させ時代の価値観の転換を表現したのです。ただしアートの場合、一度爆発した威力はとても大きなインパクを社会に与えることになるでしょう。
結論:デザインとアートの違い
この記事の冒頭に「人生をデザインする」という言葉に違和感を感じると言いましたが、これは完全なるコピーライターの比喩です。人生とは商品ではありません。したがって創意工夫をしてデザインなんてできないのです。
デザイナーとアーティストはともに、社会を引っ張っていく役割を担っているのです。どんな社会でも体制に属さないで、あらぬ方向をみている人がいるはずです。言うなればアウトサイダー。アーティストはどこか格好からしても変わっているものです。でもそれにはちゃんとした法則があるのです。時代には転換点が必要な時があるのですが、その梶を切るのは、アーティストやデザイナーのような臍曲がりなのです。
デザインとアートは同じ部類に属します。ところが商業ベースに属するデザインにはどうしても制約が付くわけです。結果やミスをしてしうと会社に損害を与えてしまう。でも、周囲と同じような仕事をしてても、いつかクライアントに見放されてしまう。だからデザイナーの方が精神的にはキツイかも知れませんね。
何度も言いますが、アーティストは自由です。良い作品を作り評価されればアーティストは結構良い生活ができるのです。ただ、アーティストというのは噂によれば生活は大変であるとは聞きますよ。