「デザイナーの引き出し」って聞いた時にうまい表現だと思いました。デザインの仕事は確たる自発的イメージや創作意思があるわけでなく、まず引き出しを開けるところから始まる。仕事を始め集中している時は、この引き出しからアイディアを選んでいる自分がいて、引き出しの中を必死に探している状態です。
引き出しが意味するもの
デザイナーはクライアントから提案、案件を受けその問題解決をデザインで実現する。受注した時点でクライアントの条件を整理してどのような形するかを想定します。クライアントの条件は絶対でその範囲内で何ができるかを考える。問題はそこからです。ゼロからモノを生み出すのは大変ですが、作業全体のプロセスを考えるとこの引き出しは大変便利なものです。
引き出しの中にデザインが入っている?
実際には引き出しの中に資料になったデザイン案が入っているわけではありません。そこにはひらめきがあるだけです。そして引き出しを開けるわけではありません。イメージモードに突入するのが引き出しを開ける行為に重なるのです。
例えば「居酒屋」「ハンバーガーショップ」2つの看板デザインをするとき、写真、色、使用フォント、レイアウトなどは違うはずです。この場合引き出しは二つになりますが、「居酒屋」の看板デザインを考えているときに他のイメージは浮かばないのが常です。まさに引き出しを開けて中を覗きこんでいる状態になるわけです。で、「ハンバーガーショップ」のデザインを考え始めると今度は・・ というように、デザインイメージは小分けになっています。
引き出しはどこで開けるのか!
自分がデザイナーとして、どこで引き出しを開けているかを考えました。
デザイン案件を受注して最初のイメージをクライアントに提出するまでの間です。
- インターネットで調べてみる。
- 事務所の本棚にある書籍、画集で調べる。
- 街に出て広告を意識的に眺める。
- 仕事から離れて頭の中をクリアにする。
- トイレに入っているとき。
上記の最後2点ですが、アイディアに行き詰まり諦め一旦仕事から離れることがありますが。そんな時にも無意識に引き出しを開けていることが多いような気がします。すると思わぬ時にデザインヒントが浮かびます。
よく言われる「神が降りて・・・来た!」というやつです。
意識する、しない、全く関係なしで引き出しを開けているのでしょう!
引き出しの中身
不思議ですが、引き出しの中身の存在はカオスで意識的なものと無意識なものが混ざっています。引き出しを開けると、ちゃんと中に入っている場合とそうでなく、降りてくるときがあります。でも、意識的には具体的にブラウザーのブックマーク、スマホで写真を撮るなどの作業がそれにあたります。
美術大学で勉強をしていたとき、教授の話で印象深いものがあります。今、ネットで検索しても引っかからないので、信憑性はイマイチなんですが、ピカソの散歩という話です。
ピカソは散歩から帰ってくると、ポケットの中には途中見つけた面白い形の石やガラクタをいっぱい拾いあつめていた、という話です。あの天才でも常にインスピレーションを自分の周りから得ていたということを、教授から聞きました。
引き出しの数が多いデザイナーが有能?
引き出しの数が多いデザイナーは有能であるという説がありますが、デザイン案件も業種によってかなり違うので対応能力を考えると引き出しの数が多い方が、デザイナーとしては幅が出るわけです。
たまに新規のお客さんで過去の作品で私の業界でやった仕事を見せてくださいと尋ねられることがありますが、そんな場合引き出しがものを言います。作品がなくても、打ち合わせの時にお客様の業界は・・・の傾向があります、とか、今はこのようなスタイルが流行っていますね、とかをちょこっと引き出しを開けて提案できるからです。デザイン作業はテイストや構成などクライアントの業界に合わせて変えなければなりません。そこは信頼されるための基本となりますから。
アーティストであれば自分の好きなものを、どんどん追求し深堀すればよいのですが、デザイナーはクライアントがいる限りそうはいきません。そんなことを考えると引き出しの重要さと中身の充実はかなり強力なツールとなるわけです。ですからプロになればなるほど常日頃の意識は大切となります。