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キスリング展東京都庭園美術館の外観

アーティスト アート 展覧会

キスリング展と東京都庭園美術館

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エコール・ド・パリを代表する画家キスリング展が東京都庭園美術で開催されていましたが
昨日が最終日とのことで行ってみました。

正直のところ日本ではあまり人気のない画家ではあります。そして雨が降って肌寒い陽気でしたが、展覧会場はなかなかの混み具合でした。最終日ということもあったのでしょうね。

余談ですが最近は展覧会が盛況です。私が美大生のころはここまで混雑することはなかったような記憶があります。アートに対する興味が世間的にも上がっているのです。

キスリングの足跡

冒頭でキスリングは日本では人気がないという画家であると、書きましたがこれは私の意見。

しかし、キスリングが活動した時代の芸術家ピカソ、ゴッホ、セザンヌ、ブラック、モディリアーニなどドラマチックな人生を歩んだ芸術家に比べると少々名前を聞く機会は少ないかと思います。

もちろん画風や何枚かの絵は私の記憶に残っていますが。

エコール・ド・パリを代表する画家、キスリング(1891〜1953)。ポーランドのクラクフで生まれたキスリングは、同地の美術学校を卒業後、19歳で渡仏。モンマルトルやモンパルナスで、ピカソ、ジョルジュ・ブラック、モディリアーニなど多くの芸術家と知り合った。

日本では12年ぶり。キスリングの画業を辿る「キスリング展」美術手帖より
https://bijutsutecho.com/magazine/news/exhibition/19583

 

エコール・ド・パリっていうのはモンマルトルにある共同アトリエ「ラリューシュ」(蜂の巣という意味)に集まっていた画家たちのことを指します。流派とか画風の意味ではないようです。

エコール・ド・パリといった言葉が出てくると、急に美術がわからなくなってしまいますね。(印象派、キョビズム、ロマン派・・同じくわからないですね)

日本でいうところの、トキワ荘みたいに考えればよろしいかと思います。

手塚治虫、赤塚不二夫、藤子不二雄、石ノ森章太郎が住んでいたアパートの名前ですが、今ではトキワ荘といえば日本を代表する漫画家が集まって一時代を作っていた「くくり」のようなモノです。

そのエコール・ド・パリの主要人物がキスリングです。

キスリングは作品が当時の画壇や評論家から評価を受けて画家としては成功しています。その結果仲間の画家の面倒をみたことも伝えられています。モンパルナスにアトリエがあったことから「モンパルナスの帝王」という芸術家として意外な愛称で呼ばれていました。

展覧会場にキスリングの写真が何枚か展示されていますが、見た感じあきらかにちょいワルオヤジ風で帝王という呼称がぴったりで思わず納得でしたね。

第一次世界大戦で外人部隊に志願して参戦しますが負傷してスペインで療養。そこではマリーローランサンと知り合います。

その後パリに戻りフランス軍の高官の娘と結婚。画壇でも成功を収めて画家としては順風満帆の人生を歩みます。

第二次世界大戦になると、ユダヤ人であることから、戦火を逃れアメリカに亡命しますが、アメリカでも人気があって精力的に制作活動をしています。その頃も同じく亡命してきた画家たちを経済的に支援しました。

その後パリに戻り画家としては幸せな生涯を閉じます。

キスリングの作品

これも私の持論ですが、キスリングの絵を見る限りはデッサンはうまくないと思います。デッサンとはいわゆる絵を描く上での基礎的写実力のことです。

ピカソでもマティスでも絵を学んだことがない人が絵を見ると、正直何が描いてあるかわかりませんが、巨匠と呼ばれる芸術家には基礎的なデッサン力の尻尾みたいなモノはその作品からは見えます。ちゃんとした基礎がその作品のベースを支えているのがわかるのですが、キスリングの絵には何となくそれが希薄です。

今回の展覧会では1912年から1953年までの92の作品が展示されています。

年代に沿って作品を見ることができます。印象派の画家がそうであったように、年代ごとに作風は変わっていきます。

 

初期はキュビスムの影響も受けましたが、キュビストのように現実世界から離れることには抵抗し、すぐに主題を写実的に表わすようになります。そしてイタリアやフランドルの古典的な絵画に積極的に学び、1920年代の絵画に見られる秩序への回帰の動きに同調していきました。

風景画、静物画、裸婦などにおいて独自のスタイルを発展させていきましたが、なかでも肖像画にその特徴が最もよく表れています。丁寧な筆致による洗練されたレアリスムと、静謐なムードに満ち、輝かしく官能的な色彩によって、キスリングはエコール・ド・パリの重要な芸術家として位置付けられるのです。

キスリング展 エコール・ド・パリの夢より
https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/190420-0707_kisling.html#works

 

セザンヌ、ピカソ、モディリアーニに影響を受けている作品が展示されていますが、私が特に興味を持った絵は人物と生物を描いたモノです。

キスリングは基礎力がないと言いましたが、絵というものは面白いもので、上手な絵と良い絵があります。キスリングの場合はあきらかに後者で、良い絵なんですね。

展示された絵から受ける印象はかなりのものです。

上は展覧会のチラシを写メです。不思議な人物画ですが今回の展覧会の目玉になる絵です。この絵キスリングの魂が込められています。

パッと見た瞬間、違和感を感じます。不思議な雰囲気な絵ですね。

伊勢丹の手提げ袋のようなチェックの服を着た娘が 百合を持ち立っています。背景は背の低い植物が茂っています。私たちの目にはこの風景が自然に映りますが、実際に絵を描いた人であるならば、柄の服を描くのは大変むずかしいものであるとすぐ気づきます。

柄の歪みを忠実に描かないとそれを着ている人物のフォルムが歪んでしまいます。ですからかなり気をつかって服の柄は表現しなければなりません。今回の展覧会に出品されている人物画には柄をまとったものがほとんどでキスリングはこの柄を描くことに集中していたのがわかります。

もう一つ注目するのはこの女性と背景の植物の関連性です。植物は茎と葉が茂っていますが、これも絵で表現しようとすると大変難しいものです。

この絵は

  • 背の低い植物群の背景
  • 官能的な色彩で描かれた柄のワンピースを着た若い女性
  • 手に持った絵の中心になる白い百合の花

という三重構造になっています。

そのような視点で見るとキスリングの意図が理解できます。

モデルになっている女性はフランスの女流小説家コレットの娘。顔は無表情で能面のようですが、仮にキスリングがこの三重構造の空間を表現しようと意図するのであれば、人物の情緒、感情はかえって全体感を毀損します。そう考えればこの絵のロジックは完璧に計算されています。

キスリングの人物画に描かれる表情は笑顔もなく、静かに空間の一点を見つめるようなモノが多いのです。

色彩芸術家と呼ばれていたキスリングですが、私は上記の意味ではあきらかに空間を表現する画家であるとも思います。

空間といっても2次元の中の空間です。晩年アンリ・マティスが追求した平面なのに色だけで奥行きを出す、あの高度な空間です。

展覧会の楽しみと、キスリング以外の楽しみ

あえてこんなこと言わなくてもよいかと思いますが、展覧会に出かけて本物の絵を見なければ価値はわかりません。

美術雑誌やインターネットで調べればいくらでも絵は検索して見られますが、残念ながらそのような媒体からでは感動は得られません。ぜひ美術館で実物を見ることをお勧めします。

今回の展覧会は東京庭園美術館で行われましたが、建物自体がまた充分に見る価値があります。

この旧朝香宮邸は朝香宮鳩彦王がパリ留学後2年の歳月をかけ建築された邸宅です。

庭園美術館と呼ばれる所以は白金の地に広大な庭を持っていることです。日本庭園、西洋庭園、芝生広場の三つのエリアに分かれています。次回は建物施設中心に見学してもよいかと思いました。

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